AGI プリアンプ Model511の軽修理

 とある方から修理を依頼されたコレ。

 故障しているわけではないが、リアの端子が接触不良、これを直して欲しいとの依頼。

 私が最初にコレを見た瞬間の感想は、

 「なんか冴えないデザインでシンプルすぎるなぁコレ」

 というものでした。
 しかし、持ち主の方は曲がりなりにもオーディオを長年やってこられている方です。
 怪しいわけはない、とは思いつつ預かることにしました。

 調査をした結果、リアの端子に使われているプラスチックが劣化しているのと、ハンダクラックのようです。
 めんどくさいです。端子はオリジナルで、現代に入手できるものではありません。そもそも基板に固定し強度を持たせるやり方は間違っているので、市販の端子に交換することを決意しました。となれば、あとは端子の入手と取り付け方を検討するだけです。

 この写真は市販端子の取り付けを検討中の一こま。
 基板の穴に通らないことから、端子の出っ張りを切り落としてみましたが、高さ的にはイマイチでした。
 これも検討中の一こま。
 この上から基板をかぶせてハンダ付けするつもりでした。

 なぜ端子が3個しかないのかというと、

 「どうせフォノとAUXとプリアウトしか使わないから」

 という依頼主からの要望でもありました。

 フォノ以外の入力はコールドラインが共通でした。
 ・・・結局端子を全部交換することに。

 実は音を出してみたんですが、依頼主の方が仰るに

 「ハイスピードですよ」

 とのお言葉。現在使用中のCL-32がまったり系なだけに、その反対路線、B-2301の能力を生かせているとは思いにくいCL-32に換えてどうなるのか、気になるところでした。

 ・・・結果、ハイスピードはともかく、レンジも広く、いい感じでした。

 その瞬間、このアンプは私の中でかなりランクが上がって

 「端子を全数交換して後世に残さねば」 

 と方針転換しました。
 持ち主の方にも確認し、OKを頂きました。
 こうなると改造になりますが、怪しげな端子を使って直すよりは、それなりにきちんとした端子に置き換えた方が良いです。1個450円の端子を20個買ってきました。

 このお値段、ある意味安いのかも知れませんが・・・。

 端子のホット側が基板に入るよう、基板を加工しました。
 コールド側はどうしようもないので、端子側で予めジャンパしておいて、基板へジャンパさせます。
  但しフォノ端子はコールド回路が共通ではないので要注意。
 基板は単なる中継板になるだけで、少々太いケーブルをつないでも問題はないでしょう。
 ホット側、コールド側それぞれを基板へジャンパさせて、作業終了です。
 端子を取り替えたところ。
 なにやらゴーヂャスな感じです。

 基板の固定ビスが足りなかったので、手持ちを補充しておきました。
 アンプの全景。
 実に小柄でシンプルなアンプですが、その実力たるや恐るべし。
 国産の重量級アンプって一体?と思わせます。
 トランスも小さいモノがちょこんとついているだけ。

 実は端子の交換前後で、明らかに交換後の方が重量が増えていました。
 そういうアンプです。(笑)
 基板上の様子。
 高級プリアンプには見えないその外観とは裏腹に、なにやらガラスエポキシの両面基板で細かしい基板です。
 レトロオーディオのレストアの世界でしか見たことのない「SPRAGUE」のコンデンサが見えます。状態は良く無さそうでしたが、交換することにより音質を変えてしまう可能性が高いので、今回は見送ることに。
 ちなみに、リアの端子群の信号は、右上に見えるフラットケーブル(!)により基板へ送られます。国産アンプでは有り得ないつくりです。
 このアンプの特徴的な部分のスイッチですが、これという高級品ではなさそうに見えます。
 ボリュームはどうなんでしょう?
 そういえばこれもシールド線じゃないなぁ、こんなもんなんかな(笑)。
 無事に修理が終わって音を出しているところ。
 B-2301に接続して使ってみますが、やはりレンジの広さと軽快さを感じますね。ハイスピードとはこのことなのでしょう。
 だからと言って低域もしっかり出ているので大したものです。

 パネルのスイッチはプッシュスイッチで、選んだボタンは内部から緑色の蛍光色が見えます。これ自体は発光したりはしません。
 唯一パネル上で光るのは電源スイッチだけです。
 この電源スイッチ、実はリアのコンセントの連動のためにあるだけのようで、実はプリアンプの電源はコンセントが電源につながっていれば入ったままなのです。消費電力も5Wですし。

 このアンプ、かなりレアなシロモノのようですが、もしうっかりと見つけたら保護されることをお勧めします。これがジャンクで2万円なら、買いたいと思う品物です。
 中古市場でも、かなりのお値段のようです。

 無事に納品されて、持ち主の方の喜ばれる顔が私は嬉しかったです。

 愛着のある機械を直すというのは、持ち主の方がその機械と過ごしてきた時間を取り戻す、ということなのでしょうか。

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